会話の隙間は、およそ 0.2秒だと言われています。
相手が話し終えてから、次の人が話し始めるまで。この0.2秒という数字は、言語をまたいでおおむね共通することが知られています。
稽古場で、ここに一つ問題が見つかりました。
息を吸うと、それだけで間に合わない
息を吸う動作には、0.5秒近くかかります。
つまり、相手の台詞が終わってから息を吸って喋り始めると、吸った時点ですでに0.2秒を大きく超えていることになります。
考える速さの問題ではありません。呼吸の物理的な時間の問題です。
実際にやってみると分かります
私たちは稽古で、同じやりとりを二通りで試しました。
1. 相手の台詞が終わってから、息を吸って答える
2. 息を吸わず、残っている息のまま答える
2のほうが、明らかに速い。そして会話として自然に聞こえます。
1をやると、どれだけ急いでも間延びします。本人は普通に返しているつもりでも、聞いている側には「一拍置いた」と伝わる。
日常の会話でも同じことが起きている
面白いのは、これが日常でも観察できることです。
軽い相槌や同意のとき、人はあまり息を吸いません。「そうだよね」「わかる」は、残った息のまま出ています。だから速い。
逆に、内容の重い返答の前には息を吸います。長く話す準備だからです。
つまり吸気は「これから長く話す」という予告として機能しています。
だから、吸ったこと自体が意味になる
ここが演技にとって重要な点です。
台詞の前に息を吸うと、聞いている側は無意識に
・何か長いことを言おうとしている
・迷っている
・同意していない
と読み取ります。遅れは、ただの遅れとして届きません。意味として届きます。
軽く肯定したい場面で息を吸ってしまうと、それだけで「本当は納得していない人」に見える。台詞は同じなのに、です。
稽古での直し方
手順はごく単純です。
1. 相手の台詞を最後まで聞かない(後述します)
2. 息を吸わずに返すと決める
3. 残った息が足りる長さに、返しを収める
3が効きます。息が足りない長さの台詞なら、そもそも吸わずには言えません。吸わずに言えるかどうかで、その台詞の長さが適切かを判定できます。
「聞き終えてから考える」をやめる
もう一つ必要なことがあります。
0.2秒で返すには、相手が話し終わる前に返答を組み上げておく必要があります。聞き終えてから考えていては、物理的に間に合いません。
人は日常でこれを自然にやっています。相手の話がどこで終わるかを予測しながら、同時に自分の返しを準備している。準備は早く、発射は遅く。この二段構えが0.2秒を可能にしています。
舞台の上でこれが崩れるのは、台詞を思い出す作業が割り込むからです。
まとめ
・会話の隙間は約0.2秒
・ 息を吸う動作だけで0.5秒近く食う
・だから吸ってから返すと、必ず間に合わない
・吸気は「長く話す」「迷っている」という予告として読まれる
・軽い返しは、残った息のまま返す
・返答は、相手が話し終わる前に組み上げておく
間が作れないという悩みの一部は、技術ではなく呼吸の設計で解けます。
劇団天文座は大阪・新大阪の稽古場で、毎日19時から22時まで稽古しています。会話の間や視線の研究を、実際の稽古に落とし込んでいます。見学はいつでも歓迎しています。