台本の言葉を一字も変えずに、二人の関係を書き換えることができます。
使うのは応答の速さだけです。
速く返す相手を、人は「近い」と感じる
初対面の66名と、友人同士を対象にした研究があります。
自由に会話をしてもらって録音し、どの瞬間にどれだけ「繋がり」を感じたかを
後から答えてもらう、という設計です。
結果は明快でした。相手の反応が速いほど、繋がりと楽しさの評定が高い。
話題の内容でも、声の調子でもありませんでした。
応答時間だけを操作した別の実験でも、同じ結果が出ています。
つまり、速さそのものが関係を伝えています。
現実の会話は0.2秒で回っている
前提を確認しておきます。
人間の会話の隙間は、平均するとおよそ0.2秒です。200ミリ秒。
一方、息を吸う動作には0.5秒近くかかります。
相手が言い終わってから吸っていたら、原理的に間に合いません。
だから実際の会話では、相手が話し終わる前に返答が組み上がっています。
準備は早く、発射は遅く。この二段構えが0.2秒を可能にしています。
5段階に書き分ける
この0.2秒を基準に、関係の段階を秒数で設計できます。
第1段階|他人行儀(0.4〜0.6秒)
互いに息を吸ってから話し始めます。
相槌は少なく、入るとしても遅い。
聞いてから考えている状態が、そのまま距離として伝わります。
第2段階|打ち解ける(0.2秒前後)
吸気なしの応答が増えます。息を吸わずに返す。
相槌が入り始めます。
ここが日常会話の標準です。
第3段階|噛み合う(0〜0.1秒)
ときどき重なります。語尾に食い込む。
相手の言葉を引き取って続ける、ということが起きます。
親密さは、重なりの量で伝わります。
第4段階|決裂(0.7〜1秒)
吸気が復活します。
第1段階と秒数は近いのですが、意味が違います。
他人行儀の沈黙は「まだ知らない」ですが、
決裂の沈黙は拒否の予告として働きます。
同じ0.5秒でも、それまでに0.1秒で返していた二人がやると、意味が反転します。
第5段階|別れ(1.5秒以上)
無応答。
稽古でどう使うか
同じシーンを、上の5段階で通します。セリフは一切変えません。
やってみると分かりますが、別のシーンになります。
感情を作らなくても、関係が変わります。
演出として指示を出すときも、「もっと距離を感じて」より
「ここは0.5秒、息を吸ってから返してください」のほうが確実に伝わります。
場面が進むにつれて変えていく
ひとつの作品の中で、同じ二人の関係が変化していくことがあります。
そのとき、秒数で書き分けておくと設計になります。
・冒頭は0.5秒、互いに吸ってから
・中盤で0.2秒に落とす
・ここから0.1秒、重ね始める
・決裂の場面で0.8秒に戻す。吸気を復活させる
役者の感情任せにすると、この変化は曖昧になります。
数字で決めておくと、毎回同じように再現できます。
注意点
秒数を厳密に測る必要はありません。
0.5秒と0.2秒の差が分かればいいです。
稽古で録音して聞き返すと、自分がどのくらいで返しているかが分かります。
自分の耳で聞いているときには、この差はほとんど分かりません。
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